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名古屋地方裁判所 昭和54年(ワ)1297号 判決 1982年12月13日

原告 濤和化学株式会社

右代表者代表取締役 菱田巖

右訴訟代理人弁護士 東浦菊夫

右同 古田友三

被告 株式会社三重銀行

右代表者代表取締役 栗原五郎

右訴訟代理人弁護士 佐治良三

右同 太田耕治

右同 後藤武夫

右同 建守徹

右同 渡辺一平

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1.被告は、原告に対し金三、八五九万四、三九二円及びこれに対する昭和五二年一二月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2.訴訟費用は被告の負担とする。

3.仮執行宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

主文同旨の判決

第二、当事者の主張

一、請求原因

1.訴外高木明雄は、昭和四三年三月一日プラスチック着色材製造販売を業とする原告会社に就職し、昭和四六年頃から同五二年一一月まで原告会社春日井工場長の職にあったものである。

2.高木は昭和四七年頃、原告会社に無断で、被告銀行春日井支店に「原告会社春日井工場所長高木明雄」名義の当座及び同名義の普通預金口座と「高木明雄」名義の普通預金口座をそれぞれ開設し、昭和四八年八月から昭和五二年六月までの間に、別表1記載のとおり前記原告会社春日井工場所長高木明雄名義の当座に入金された原告会社の商品販売代金を合計二、九三五万六、七二六円にのぼり順次出金したうえ自己の用途に費消して横領し、また別表2のとおり合計九二三万七、六六六円にのぼる原告会社のプラスチック着色材等販売代金を前記高木明雄名義の普通預金口座に入金して横領し、原告会社に対し、合計金三、八五九万四、三九二円の損害を与えた。

3.(1) およそ銀行が法人と当座勘定取引を開始するに際しては、法人に登記簿謄本を提出させ、かつ代理人により取引をする場合には、本人たる法人の代表者から代理人届を提出させることが当然要求されるにも拘らず、被告銀行の担当職員は、原告会社の登記簿謄本、代理届を提出させることを怠り、前記諸口座の開設を認め、もって高木の右2の横領を幇助したものである。

(2) 被告銀行の高木明雄名義の普通預金口座に入金された手形及び小切手は、いずれも原告会社名古屋営業所所長高木明雄なる裏書がなされ、かつ右手形及び小切手の多くのものは表面に原告会社の表示がしてあった。従って被告銀行としては、右手形及び小切手がいずれも原告会社の販売したプラスチック着色材等に対する代金支払のためのものであることを当然知りえたはずであり、その上で被告銀行は右手形及び小切手を前記高木名義の普通預金口座に入金したのであるから、高木の前記2の横領を幇助したことになる。

4.被告銀行担当職員の右幇助行為は被告銀行の業務執行についてなされたものであるから、被告は右担当職員の使用者として原告のうけた損害を賠償する責任がある。

5.よって、原告は、被告に対し、金三、八五九万四、三九二円及びこれに対する不法行為の後である昭和五二年一二月一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二、請求原因に対する認否

1.請求原因1の事実中、高木が原告会社に勤務していた事実は認めるが、その余の事実は知らない。

2.請求原因2の事実中、被告銀行春日井支店に原告会社名古屋営業所所長高木明雄名義の当座及び同名義の普通預金口座並びに高木明雄名義の普通預金口座を開設したこと、昭和四八年八月から昭和五二年六月までの間の右原告会社名古屋営業所所長高木明雄名義の当座の出金状況が別表1のとおりであって合計金二、九三五万六、七二六円であること、昭和四八年一〇月から昭和五二年一二月までの間の右高木明雄名義の普通預金口座への入金状況が別表2のとおりであって合計九二三万七、六六六円であることは認めるが、その余の事実は否認する。

3.請求原因3の各事実はいずれも否認する。

4.(1) 銀行が当座の開設にあたって代理人届を徴求するのは相手方の取引資格の確認のためであり、銀行内部の業務の必要から行われるのである。従って、相手方の取引資格が他の方法で確認される限り、必ずしも代理人届を要しないし、まして取引の相手方に対する義務として代理人届を徴求する必要はない。

(2) 本件当座の開設に際し、被告は、原告が名古屋営業所を設置していることを確認し、高木がその所長であることを確認した。従って高木が商法四三条による法定の代理権を有することが確認できたので、代理人届の徴求を省略して当座を開設したのである。

(3) 原告主張の手形及び小切手が原告への販売代金支払のためのものであったとしても、被告銀行は何人に対してもそのような実質関係を調査する義務を負うものではなく、形式的資格に問題がない限り持参者のために取立てをしても何ら不法となるものではない。

三、被告の積極主張に対する原告の答弁

被告の右主張は争う。

第三、証拠<省略>

理由

一、訴外高木明雄がかつて原告会社に勤務していたこと、被告銀行春日井支店に「原告会社名古屋営業所所長高木明雄」名義の当座及び普通預金口座並びに「高木明雄」名義の普通預金口座が開設されたこと、右当座及び高木明雄名義の普通預金口座に別表1、2のとおり入出金のあったこと、以上の事実は当事者間に争いがない(なお、原告は訴状、準備書面において「原告会社春日井工場所長高木明雄」名義と主張するが、被告の主張及び乙第一号証に照らすとこれは原告代理人の誤記と認める)。

二、原告は、高木が原告に無断で右各口座の開設を申込んだのに対し、被告銀行春日井支店の担当者が杜さんな調査に終始してこの点を確認せず、漫然と高木の申込みに応じたこと、また、原告会社の商品販売代金への入金であることを知りながら、それを高木明雄個人の右普通預金口座へ入金したことにより、高木が右各口座を利用して原告会社の金員を着服横領することを幇助したと主張するところ、証人美濃部務の証言によれば、被告銀行の内部規定によると、法人と当座勘定取引契約を締結するに際しては、当該法人の信用状況、取引停止処分の有無等につき事前調査をする他、当座勘定約定書、取引印鑑届、登記簿謄本、代理人選任届を徴求することに定められていたが、被告銀行春日井支店においては「原告会社名古屋営業所所長」と称する右高木と当座取引勘定を開始するに際しては、同支店が開店早々で顧客の獲得を急いでいたこともあって、右内部規定に則った処理を怠り、僅かに、担当者が原告会社春日井工場を訪問したり、高木明雄に面接したりした他、取引停止処分の有無を調査し、取引約定書と印鑑届の提出を受けただけで、原告会社の登記簿謄本と印鑑届の照合や、印鑑が登録されているものかどうかの確認をせず、代理人届も徴求しなかったこと、また普通預金口座の開設にあたっては、被告銀行では法人、個人を問わず申込名義人に印鑑届の提出を求める他は特別の調査や書類は作成しない実務になっていたことから、同支店においても右印鑑届を徴求しただけで前記当事者間に争いがない二口の普通預金口座を開設したこと、以上の各事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

三、そこで検討するに、銀行が顧客からの当座勘定取引の申込に対し、これに応じて契約を締結するかどうかは本来銀行側の自主的な判断に委されることであって、通常、銀行が申込者の経歴、権利能力の有無、資産、信用状態、取引停止処分の有無等につき調査をし、或いは申込者にそれらに関する資料を提出させるのは、銀行が爾後の取引における自らの利益や信用を保持するために他ならない。従って、右証人の証言から認められるような被告銀行の内規も銀行内部における事務処理手続において担当職員を拘束するものにすぎないのであるから、担当職員がこれを怠ったからといって、内部的に責任問題を生ずるのは格別、直ちに申込者や第三者に対し責任を負うべきものではない。とはいえ、いわゆる当座開設屋なるものが存在する等当座勘定取引口座を設けたうえ、これを利用し、或いはこの際銀行から交付をうけた手形小切手帳を使って犯罪行為やこれに類する不正行為を働くものがままあることは世上知られているところでもあり、銀行が私企業であるとはいえ、広く国民大衆に利用されているその公共性も否定できないことからすると、原告主張のような不法行為が予測されるときは当然これを未然に防止すべき措置をとるべきことが単に道義上のものではなく、法律上の義務として要求されるものである。しかし、その反面銀行が日々多量の取引の中で常に申込者の不法行為を予期して調査にあたらねばならないというものではなく、そこまでも期待することはむしろ困難というべきであるから、その注意義務の範囲にもおのずから限度があるといわざるをえないところである。そして、本件においては不充分とはいいながら前記認定の程度の調査は行っていることや、証人美濃部務の証言によると、高木が提出したものと認められる当座勘定取引約定書(乙第一号証)には原告会社名古屋営業所の住所地として、甲第七号証から原告会社春日井工場の所在地であると認められる春日井市御幸町一丁目三の二六と記載されており、被告銀行担当者は同所で高木と面接したことが認められること、また右契約の時点で、他に高木が原告主張のような方法で原告会社の金員を横領することを企図していたことを窺わせる徴表があったとは証拠上認められないことから、結局被告銀行春日井支店における事前の調査確認は前記のように充分なものとはいい難く、本人である原告会社の意思を確認していないことが認められるものの、本件当座勘定取引契約の締結に際し、被告銀行春日井支店の担当者の過失により右担当者が原告主張のような幇助行為をなしたとまで認定することは困難である。

また、普通預金口座の開設については、被告銀行の担当者に内部規定に反するとか、その他特に手落ちといったものも認められず、その後の同口座への入金についても、証人美濃部務の証言、甲第一号証の一ないし四、第九号証の一ないし五によっても、格別問題とすべき点は見当らないから、前同様、これによって高木の不法行為を被告銀行の担当者が幇助した事実を認めることはできない。

四、以上説示のとおりであるから、その余の事実について判断するまでもなく原告の請求は理由がない。よってこれを失当として棄却することとし、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 宮本増)

<以下省略>

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